最新研究紹介:マルチモビディティ・パターンと健康関連QOLとの関連−全国前向きコホート研究−

私たちの最新研究の紹介です。マルチモビディティ・パターンと健康関連QOLとの関連に関する全国前向きコホート研究の結果が、BMJ Open誌に掲載されました。

bmjopen.bmj.com

 

<研究の要点>

  • マルチモビディティに関する日本初の全国前向きコホート研究を実施。
  • マルチモビディティ・パターンと健康関連QOLとの関連についての縦断研究を、国際的にも初めて報告。
  • 5つの疾患パターンのうち、心血管代謝疾患パターンが、健康関連QOL低下と最も関連。
  • 本研究の結果は、マルチモビディティの中でも特に健康リスクが高い患者の同定に役立つ可能性。

 

 多疾患併存状態(マルチモビディティ)は、複数(一般的には2つ以上)の慢性疾患が一個人に併存している状態であり、中心となる疾患を特定できない状態を指します。高齢化や疾病構造の変化に従い、マルチモビディティは、今や国際的に重要な臨床課題に位置付けられています。

 過去に私たちが実施した日本の全国横断研究では、一般住民におけるマルチモビディティの有病割合は18歳以上では29.9%、65歳以上では62.8%に昇りました。

www.nature.com

 

 マルチモビディティは、様々な健康リスクと関連することが明らかになっています。特に健康関連QOLは、マルチモビディティにおいて最も重要なアウトカムの一つとされています。

www.annfammed.org

 

 しかし、これまでのマルチモビディティと健康関連QOLとの関連についての研究には以下の課題がありました。

  • マルチモビディティと健康関連QOLとの関連についての研究は、ほとんどが横断研究であり、縦断研究が非常に少ない。
  • マルチモビディティには様々な疾患併存パターンがあるが、マルチモビディティ・パターンがどのように健康関連QOLに影響を及ぼすか検証した縦断研究は、国際的にもまだ報告されていない。

 

 マルチモビディティ・パターンは、近年非常に注目されている研究課題です。マルチモビディティ患者は異質性の高い集団であり、例えば、2つの慢性疾患を持つ患者であっても、その中には慢性心不全と糖尿病を持つ患者も、気管支喘息アトピー性皮膚炎を持つ患者も、パーキンソン病うつ病を持つ患者も含まれます。この様な多様な患者群をマルチモビディティとして一括りにすることには限界があると考えられ始めているためです。

 

 そのため本研究は、マルチモビディティ・パターンと健康関連QOL低下との関連を、全国規模の前向きコホート研究で明らかにすることを目的としました。

 

 本研究は、50歳以上の全国一般住民1,211名を対象とした前向きコホート研究であり、以下の手順で統計解析を実施しました。

①以前の私たちの研究で探索的因子分析によって同定した5つのマルチモビディティ・パターンを確認的因子分析を用いて検証。

②5つのマルチモビディティ・パターンをスコア化し、そのスコアと健康関連QOL(SF-36で評価)の1年間での臨床的に有意な低下との関連を、患者背景を調整した多変量解析によって分析。

 

 その結果、

  • 5つのマルチモビディティ・パターンは、以前の研究で用いた探索的手法とは異なる確認的手法を用いても妥当であることが確認されました。

f:id:academicgp:20210615182617j:plain 

  • 5つのマルチモビディティ・パターンのうち、心血管代謝疾患パターンは身体的・社会的QOLの低下と有意に関連することが明らかになりました。悪性疾患パターンは身体的QOL低下とのみ有意に関連していました。その他のパターンについては、統計学的に有意な関連を認めませんでした。

f:id:academicgp:20210615182736j:plain

 

 高齢化が進行している日本では、すでにマルチモビディティが臨床現場で当たり前の健康問題になっていますが、本研究の結果は、マルチモビディティの中でも、特にQOL低下のリスクが高く、介入の必要性が高い患者を同定する上で役立つ可能性があります。

 

 ちょうど今月発刊の総合診療医向け医学誌Gノートで、マルチモビディティ特集の編集を担当したので、是非こちらもご覧ください。

www.yodosha.co.jp

 

引用文献

Aoki T, Fukuhara S, Fujinuma Y, Yamamoto Y. Effect of Multimorbidity Patterns on the Decline in Health-Related Quality of Life: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan. BMJ Open. 2021;11:e047812.

日本で初めてプライマリ・ケアの価値を検証する全国調査を開始

現在進行中の研究プロジェクトの紹介です。

日本で初めて、プライマリ・ケアの価値を検証する全国調査(NUCS)を開始しました

 

背景

 国際的に、疾病構造の変化や医療の地域ヘの移行、医療費による財政圧迫などの背景から、従来のヘルスケアシステムからプライマリ・ケアに重点を置いたシステムへの移行が推進しています。

 こうした諸外国の政策は、プライマリ・ケアの価値に関するヘルスサービス研究の知見に支持されています。例えば、欧米のヘルスケアシステムにおいて、プライマリ・ケアの充実が、臨床指標の改善、住民の健康指標の改善や格差の減少、医療費の減少などと関連することが検証されています。

しかし

・この様な欧米の研究結果を、ヘルスケアシステムの異なる日本に直接外挿することは困難。

・これらの欧米の研究は、地域レベルの生態学的研究が多く、住民個人レベルでプライマリ・ケア機能とアウトカムとの関連を検証した研究は、国際的にもまだ少ない。

といった課題があります。

 

 そこで、私にとって念願だった、日本においてプライマリ・ケアの価値を検証する全国調査を2021年から開始することになりました。

これまで、今回の研究プロジェクトを開始するための基盤となる研究を積み重ねてきました。

 

基盤となる研究

①Japanese version of Primary Care Assessment Tool(JPCAT)の開発・検証研究

 以前にも紹介したプライマリ・ケアの質を評価するJPCATは、プライマリ・ケアの質が住民の健康や行動に及ぼす影響を調査することを目的の一つに位置付けて開発しました。

日本でも、ただ単にプライマリ・ケア医(かかりつけ医)がいるか・いないかだけでなく、提供されるプライマリ・ケアの質も住民の健康や行動に影響するのではないか、という仮説を持っていたからです。

academicgp.hatenablog.com

 

②プライマリ・ケア機能と予防医療指標との関連を検証した多施設共同研究

 これまで私たちは、JPCATを使用し、プライマリ・ケア機能が個別の予防医療指標に及ぼす影響について研究を実施してきました。

例えば、良質なプライマリ・ケアが高齢者の予防接種や女性の癌検診の実施率を高めることを既に報告しています。

link.springer.com

apfmj.biomedcentral.com

 

 ただし、これらはあくまで部分的な指標であり、より包括的なヘルスサービスの指標との関連を検証する必要があります。

また研究目的で公募した医療機関でプライマリ・ケアを既に受けている患者に対象が限定されている点も、限界の一つでした。

 

③プライマリ・ケア機能と受療行動との関連を検証した多施設共同研究

 また同じくJPCATを用い、プライマリ・ケアの質がケアのバイパス(健康問題に対し、患者がプライマリ・ケアを介さずに直接高次医療機関を受診する行動)という患者の受療行動と関連することも報告しました。

link.springer.com

 ただし、この研究も②と同様の限界がありました。

 

 NUCS (National Usual source of Care Survey)の概要

・目的

そこでNUCSはこれまでの研究を基盤として、より内的・外的妥当性の高い研究デザインによって、プライマリ・ケアの価値を住民レベルで、かつ多角的に検証することを目的とします。

 

・強み

日本全国の一般住民の代表サンプルを対象とする

これまでの研究と比較し、より包括的なアウトカムデータを収集

因果推論に必要な交絡因子のデータを幅広く収集

COVID-19パンデミックの影響を踏まえたデータも収集

 

・リサーチクエスションの例

①プライマリ・ケア医の有無およびプライマリ・ケアの質が、住民が受けるヘルスサービスにどのような影響を及ぼすか?

 

②プライマリ・ケア医の有無およびプライマリ・ケアの質が、住民の受療行動にどのような影響を及ぼすか?

 

③プライマリ・ケア医の有無およびプライマリ・ケアの質が、住民の健康アウトカムにどのような影響を及ぼすか?

 

このような住民、医療者、政策立案者にとって重要な疑問に答えていければと思います。

結果は論文で公表する予定なのでお楽しみに。

研究紹介:入院患者を対象としたPX尺度の開発と検証

Aoki T, Yamamoto Y, Nakata T. Translation, adaptation, and validation of the Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems (HCAHPS) for use in Japan: A multicenter cross-sectional study. BMJ Open. 2020;10(11):e040240.

bmjopen.bmj.com

 

今回は、日本初の入院患者を対象としたPatient Experience (PX)尺度の開発・検証研究を紹介します。

 

背景

 以前プライマリ・ケアの外来患者を対象としたPX尺度であるJPCATの開発について紹介しました。

academicgp.hatenablog.com

 

 PXは、「医療サービスに関する患者の経験」を意味し、国際的に医療の質指標として重視されています。従来用いられてきた患者満足度と異なり、計量心理学の方法論を用いて標準化され、信頼性・妥当性が検証されたツールが評価に用いられます。

 

 しかし日本ではこれまで、計量心理学的特性が検証された入院患者対象のPX尺度が存在しませんでした。入院セッティングにおいても、患者中心性(Patient-centeredness)は重要な医療の質の構成要素です。

 

 そこで私たちは、米国 Centres for Medicare and Medicaid Services (CMS) とAgency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)によって開発され、国際的に最も広く活用されているPX尺度の一つであるHCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems )の日本語版を開発し、日本の病院における信頼性・妥当性を検証する研究を行いました。

 

 なおHCAHPSは、2000年代から全米調査に用いられており、収集されたデータは、診療報酬成果払いやパブリック・リポーティング(医療機関レベルや医師レベルの結果をウェブサイトなどで公開)に活用されるなど、重要な質指標として扱われています。

www.ahrq.gov

  

論文の内容

・研究デザイン

 多施設共同横断研究

  

・対象、セッティング

 計48の参加病院(日本ホスピタルアライアンス加盟病院)を調査期間内に退院した16歳以上の入院患者(連続サンプリング)。

 病院規模に応じて、施設当たり300〜600名の患者に質問紙を配布。

 

・測定項目

HCAHPS日本語版尺度

 原版開発元の米国CMS・AHRQから日本語版開発の承認。

 日本語版の開発は、AHRQが作成したCAHPS翻訳ガイドラインに従って実施。

 

 HCAHPSは、計19項目、8つの下位尺度で構成される。

  1. Communication with nurses(看護師とのコミュニケーション)
  2. Communication with doctors(医師とのコミュニケーション)
  3. Responsiveness of hospital staff(病院職員の対応)
  4. Hospital environment(病院の環境)
  5. Communication about medicines(薬剤に関するコミュニケーション)
  6. Discharge information(退院時の情報提供)
  7. Overall hospital rating(病院の総合的評価)
  8. Recommended hospital(病院の推奨度)

  

・統計解析

①構造的妥当性の検証

 確認的因子分析を実施。原版と同一の因子構造を仮定し、モデルを選択。

モデル適合度は、comparative fit index (CFI)、Tucker–Lewis index (TLI)、root mean square error of approximation (RMSEA) 、standardized root mean square residual (SRMR)を用いて評価。

 

②基準関連妥当性の検証

 病院レベルでの、各下位尺度スコアと病院の総合的評価とのピアソン相関係数を算出。

 

③内的一貫性の検証

 項目間相関とCronbachのα係数を用いて評価。

 

 

・結果

48病院計6,522人の入院患者を解析対象にしました。

 

①構造的妥当性

 確認的因子分析により、原版と同一の因子構造でのモデル適合度は良好でした。

CFI=0.987, TLI=0.981, RMSEA=0.031, SRMR=0.020

f:id:academicgp:20210325221610j:plain

HCAHPS日本語版の因子構造

 

②基準関連妥当性の検証

 病院レベルでの、各下位尺度スコアと病院の総合的評価とのピアソン相関係数は、0.36〜0.63であり基準値以上でした。

 

③内的一貫性の検証

 項目間相関は0.31〜0.73と基準値以上でしたが、Cronbach α係数は、3つの下位尺度で基準値を下回りました。Cronbach α係数は項目数の影響を受けやすいためだと考えられます。

 

 なお開発した日本語版尺度は、筆者が運営する下記のウェブサイトで閲覧可能です。

www.patient-experience.net

 

研究の意義

 HCAHPS日本語版を開発し、その構造的妥当性、基準関連妥当性、内的一貫性の評価を行ないました。本尺度は、日本の入院患者におけるPXの評価とそれに基づく医療の質向上に有用と考えられます。

 

 プライマリ・ケアの外来セッティングで開始したPX研究・実装活動を、入院セッティングへ拡張する足掛かりになりました。

 

 HCAHPS日本語版はすでに全国規模で実装段階にあり、2020年は60以上の病院で本尺度を用いたPXサーベイが実施されました。今後も毎年実施予定です。

 

 先日は、日本医療機能評価機構が開催した医療の質向上のためのコンソーシアムで、HCAHPS日本語版を含めたPX評価について講演をさせて頂きました。講演動画がアーカイブ配信されているので、ご関心のある方は是非ご覧ください。

jq-qiconf.jcqhc.or.jp

 

 講演資料もダウンロード可能になっています。

https://jq-qiconf.jcqhc.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021/02/fad0c1c55b3f41ea0840c25362e55caf.pdf

研究にまつわるストーリー:【混合研究】プライマリ・ケアにおける社会的孤立

Aoki T, Yamamoto Y, Ikenoue T, Urushibara-Miyachi Y, Kise M, Fujinuma Y, Fukuhara S. Social Isolation and Patient Experience in Older Adults. Ann Fam Med. 2018;16(5):393-8.

www.annfammed.org

Aoki T, Urushibara-Miyachi Y. A qualitative study of socially isolated patients’ perceptions of primary care. J Gen Fam Med. 2019;20(5):185-9.

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

近年総合診療を中心に、医学領域でも「混合研究法」が注目を集めています。混合研究法は、量的研究と質的研究を組み合わせた研究法です。

 

 今回ご紹介するのは、私たちが「プライマリ・ケアにおける社会的孤立」をテーマに実施した混合研究です。今回も研究の中身に加えて、ストーリー(前日譚・後日譚)についても触れたいと思います。

 

前日譚

・研究の着想

 社会的孤立(Social Isolation)は、高齢者を中心に今や国際的に大きな社会問題になっており、COVID-19パンデミックの影響も絡めてメディアで取り沙汰されています。最近では、孤独・孤立対策室が内閣官房に設置されたことがニュースになりました。

www.nikkei.com

 

 この社会的ネットワークに関する問題は、医療と無関係ではありません。なぜなら、死亡率、入院、認知機能低下、転倒、自殺などの健康リスク上昇との関連が指摘されているためです。

 

 特に地域と密接なプライマリ・ケア・総合診療の現場では、この問題に遭遇する頻度が高く、臨床医としても課題を実感していました。

 

 最近では日本でも社会的処方といった介入が取り上げられる様になりましたが、私はプライマリ・ケアの場における社会的孤立に関する基礎的情報が圧倒的に不足しているのではないかと感じていました。

 

 具体的には、

・日本のプライマリ・ケアを受診する高齢者に、社会的孤立状態の患者がどのくらいいるのか?

・社会的孤立状態の患者は、プライマリ・ケアでどのような経験をしているのか?

といった疑問がありました。後者の疑問は、「社会的孤立状態の患者に提供されている医療の質は低いのではないか?」という仮説に基づくものでした。

 

 調べてみると、特に後者の問いについては、海外も含めて先行研究に乏しいことが分かりました。そこで、社会的孤立患者が持つプライマリ・ケアに対する経験を明らかにすることを目的に研究を行うことにしました。

 

 本研究は、混合研究法を用い、量的研究の手法だけでなく、質的研究の手法も組み合わせることによって、より詳細なデータを集めるデザインを採用しました。

 

論文の内容

・研究デザイン

 多施設共同研究、混合研究法(説明的順次デザイン)

 

 ①量的研究

・対象、セッティング

 計28診療所を特定日に受診した65歳以上の外来患者(連続サンプリング)。

 

・測定項目

①社会的孤立

 日本語版 Lubben Social Network Scale 短縮版(LSNS-6)

先行研究に準じ、12点未満を社会的孤立状態と評価。

 

②プライマリ・ケアにおけるPatient Experience (PX)

 Japanese version of Primary Care Assessment Tool (JPCAT)

6つのドメイン[近接性、継続性、協調性、包括性(必要な時に利用できるサービス)、包括性(実際に受けたことがあるサービス)、地域志向性]で構成。

過去のブログ記事参照

academicgp.hatenablog.com

  

③共変量

  年齢、性別、最終学歴、世帯年収、主観的健康感、精神状態(SF-36 5-item Mental Health Index

 

・統計解析 

 上記共変量および施設クラスタを調整した線形混合効果モデルを用い、社会的孤立とJPCATスコアとの関連を解析しました。

 

・結果

①プライマリ・ケアにおける社会的孤立状態の頻度

 465名の65歳以上の高齢者が本研究に参加しました。社会的孤立状態の割合は27.3%に昇りました。

 

②社会的孤立状態とPXとの関連

  • 多変量解析の結果、社会的孤立状態の高齢者は、そうでない高齢者と比較し、JPCAT総合スコアが低値でした。
  • JPCATのドメインの中では、特に継続性、包括性(実際に受けたことがあるサービス)、地域志向性が低値でした。

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これらのスコア差は、統計学的に有意であると同時に、過去の研究から臨床的にも有意と考えられました。

 

②質的研究

・対象、セッティング

 量的研究のLSNS-6で社会的孤立状態と評価された患者の中から8名を合目的的サンプリング。

 

・データ収集

 個別インタビュー(半構造化面接)

量的研究の結果をもとに、インタビューガイドを作成。

  

・分析

  テーマ分析

問い:社会的孤立がPXに及ぼす影響のメカニズムとは何か

概念的枠組み:プライマリ・ケアの特性(近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性)

まず2名の研究者が独立して分析し、最終的に議論によってテーマを抽出。

 

・結果

抽出されたテーマ

メインテーマ1:地域のプライマリ・ケア医に関する情報の制限

サブテーマ

 コミュニティから情報を入手する機会の制限

 主治医が行う地域活動との接点の不足

 

メインテーマ2:行き掛かり上の主治医の決定

サブテーマ

 実験的な受診による主治医の吟味

 受動的な主治医の決定

 

メインテーマ3:主治医との希薄な関係性

サブテーマ

 主治医の役割の限定化

 社会的情報の共有に対する抵抗

 

結果のまとめ

・社会的孤立患者は、そうでない患者と比較し、プライマリ・ケアの質を低く認識している。

・中でも継続性、包括性、地域志向性に課題がある。

・質的研究で抽出されたテーマが、社会的孤立患者に対するプライマリ・ケアの質向上のヒントになる可能性がある。

 

 社会的処方は、地域志向性と関わりが強いですが、それのみでは社会的孤立患者の健康リスク低減には不十分ではないかと考えられます。

 

後日譚

・混合研究を学術誌に投稿する際の苦労

 この研究をきっかけに、今の科学界において、混合研究を学術誌に投稿する上での難しさも実感しました。

 

 実は、この混合研究は当初1編の論文として発表予定でした。しかし、査読を経て、投稿先から量的研究部分のみを報告するよう修正を依頼されました。その理由には、ジャーナル側の要因として、紙面が限られている中で文字数が多くなりやすい混合研究論文のハードルが相対的に高いことや、本研究の内容に関する要因として、質的研究パートのクオリティが、量的研究パートのそれよりやや劣っていたことが想定されました。そのため本研究は、2編の論文に分けて発表しました。

 

 この研究ののち、別の混合研究論文を投稿した際にも困難な状況に接しました。それは、量的研究と質的研究を統合的に評価できるジャーナルの編集者や査読者が非常に少ないという現状です。大抵量的研究と質的研究のどちらかを専門とする編集者や査読者に当たるため、正当な査読が行われないケースが相次ぎました。

 

 近年混合研究を専門とするジャーナルが出てきているので、こういった所に投稿すると、この様な問題はあまり生じないのかもしれません。

journals.sagepub.com

 

・研究としての影響

 この研究の量的研究パートは、プライマリ・ケア・総合診療領域のトップジャーナルであるAnnals of Family Medicineに掲載されました。このジャーナルには、領域における重要な論文が数多く掲載されるため、総合診療医の私にとって以前から憧れの対象でした。今回の掲載以前にも多数の論文を投稿していましたが、採択率が低いため、いずれもEditor kickされていました‥ まずこのジャーナルに自分の論文が掲載された自体が驚きでした。

 

 予想外だったのは、掲載号のEditorialで本研究が大きく扱われたことでした。”The Long Loneliness of Primary Care"というタイトルで、私たちの研究と後述のFrey先生のエッセイを絡めて論じられました。プライマリ・ケア・総合診療領域で、いかに社会的孤立が国際的な課題になっているかを示しています。

www.annfammed.org

 

  さらに予想外だったのは、当領域の米国における権威であるJohn Frey教授から本研究に関して直接連絡を頂いたことでした。Frey教授のグループもプライマリ・ケアにおける社会的ネットワークの研究を行っており、共同研究についてもお話することができました。

www.fammed.wisc.edu

 

 「社会的孤立患者に対して、どのようなプライマリ・ケアを提供すべきか?」という問いに対して、本研究は一石を投じましたが、その後の研究でもまだ分かっていないことが多いのが現状です。今後も重要な研究課題であり続けると考えられます。

 

お付き合いありがとうございました。

 

Revisit:プライマリ・ケア・総合診療領域の日本発研究論文数

今回は番外編で、日本のプライマリ・ケア/総合診療領域の研究の現状について取り上げます。

 

 以前私は、プライマリ・ケア・総合診療領域の主要国際学術誌に、日本発の研究論文がどのくらい掲載されているか調べ、論文として報告しました。今振り返ってみると、当時まだ1-2編しか論文を書いていなかった大学院生の若造がよくこんな論文書いたな、と感じます笑

 

www.jstage.jst.go.jp

【論文要旨】

PubMedを用い,2011年1月~2016年6月の期間にプライマリ・ケア主要国際学術誌5誌に掲載された臨床研究もしくは系統的レビューを報告した論文を検索し,日本の論文数シェアを算出.

結果、5大学術誌に掲載された日本発の論文は計4編のみであり,日本の論文数シェアはたった0.15%!プライマリ・ケア主要国際学術誌における日本の論文数シェアは極めて少なかった.

 

 この研究では、2011年~2016年6月を対象期間としていたため、その後約5年が経過し、変化があるのかが気になっていました。

そこで今回は、以前の調査の続きとして、2016〜2020年のプライマリ・ケア・総合診療領域における日本の論文数を検討してみたいと思います。

 

・調査方法

 対象のプライマリ・ケア・総合診療領域の主要国際学術誌は前回と揃えました。Impact Factorを基準に以下のジャーナルを選択しています。なお1〜3位はほぼ固定ですが、4,5位は年によって多少入れ替わりがあります。

 

プライマリ・ケア・総合診療領域の5大誌

1. Annals of Family Medicine (AFM)

2. Journal of General Internal Medicine (JGIM)

3. British Journal of General Practice (BJGP)

4. Family Practice (FP)

5. The Journal of the American Board of Family Medicine (JABFM)

 

 PubMedを用い、以下の検索式で総論文数と日本発の論文数をカウントしました。

なお検索上、症例報告や総説を完全に除外できていない可能性はあります。

今回の調査における日本発論文の定義は、著者の所属に日本の機関が入っていることです。

 

総論文数

(((“ジャーナル名"[Journal]AND("2016"[PDAT]: "2020"[PDAT]))AND journal article[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])NOT review[Publication Type])AND hasabstract[text]

日本発の論文数

(((“ジャーナル名"[Journal]AND("2016"[PDAT]: "2020"[PDAT]))AND journal article[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])NOT review[Publication Type])AND japan[Affiliation]AND hasabstract[text]

検索日:2021年1月22日

 

・結果

 対象となった 5つの学術誌に掲載された日本発の論文は計29編であり、日本の論文数シェアは 0.90% でした。

 

 前回は計4編、0.15%でした。まだまだ少ないですが、日本発の論文が増えているようです(単純計算で6-7倍)。

 

表. ジャーナル別の結果 (2016〜2020年)

f:id:academicgp:20210123103310j:plain

 

1. Annals of Family Medicine (AFM)

 プライマリ・ケア/総合診療領域のトップジャーナルです。北米の家庭医療/総合診療に関わる7団体が共同で出版しています。

日本発の論文は、前回の調査では0編 (0%)でしたが、2016〜2020年では2編 (0.58%)でした。2編とも私たちの論文でした。

 

www.annfammed.org

www.annfammed.org

 

2. Journal of General Internal Medicine (JGIM)

 米国総合内科学会 (SGIM)の学会誌です。

日本発の論文は、前回の調査では1編 (0.11%)でしたが、2016〜2020年では7編 (0.59%)でした。私たちの論文は2編含まれていました。

 

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

 

3. British Journal of General Practice (BJGP)

 Royal College of General Practitioners:RCGPの学会誌です。

日本発の論文は、前回の調査では0編 (0%)でしたが、2016〜2020年では1編 (0.17%)でした。これまで私の論文は掲載されたことがありません。

 

bjgp.org

 

4. Family Practice (FP)

 Oxford University Pressが出版する、この5誌の中では最も歴史があるジャーナルです。

日本発の論文は、前回の調査では2編 (0.41%)でしたが、2016〜2020年では16編 (2.78%)でした。5誌の中で、最も掲載数が多い結果でした。私たちの論文は3編含まれていました。

各論文のリンクは省略します。

 

5. The Journal of the American Board of Family Medicine (JABFM)

 American Board of Family Medicineが出版するジャーナルです。

日本発の論文は、前回の調査では1編 (0.29%)でしたが、2016〜2020年では3編 (0.57%)でした。これまで私の論文は掲載されたことがありません。

各論文のリンクは省略します。

 

・考察

2016〜2020年のプライマリ・ケア・総合診療領域の主要国際学術における日本の論文数シェアは 0.90% であり、前回の0.15%から増加していました。

 

ただし、以前の調査で、主要臨床医学国際学術誌(120誌)における日本の論文数シェアは、2〜3% と報告されており(これもまずい訳ですが‥)、他の専門領域と比較し、プライマリ・ケア・総合診療領域では日本発の研究論文が少ない状況に変わりはないと言うことができます。

 

総合診療は日本では新しい専門領域であり、今後学術的基盤を形成し、医療の質を向上させるために、日本からの研究の発信は不可欠です。

 

なお冒頭で紹介した以前の論文で、私が挙げた課題は、主に以下の点でした。

①プライマリ・ケア研究のインフラストラクチャーに関する課題

②プライマリ・ケア研究者の育成と連携

 

この約5年間の変化として

①については、少しずつ改善傾向にあるように感じます。国内の多施設共同研究は徐々に増えています。一方で、国際共同研究はまだ殆ど実施されていません。

②については、これも少しずつですが、総合診療医が臨床研究を学習するためのリソースは

増えています。大学院博士・修士課程以外にも、学会や大学が運営する臨床研究教育プログラムがあります。まだまだ受講者数が少ないのが現状ですが。

 

またプライマリ・ケア研究者のための新たなコミュニティも形成されつつあります。

pcrconnect.org

 

 

ただし、質的研究や混合研究が圧倒的に少ない点は、今後の重要な改善ポイントだと思います。

今回の再検討では、日本発の質的研究および混合研究(尺度開発研究を除く)の論文は0編でした。

量的研究者と質的研究者の連携は、依然として課題だと感じます。

 

お付き合いありがとうございました。

研究にまつわるストーリー:日本におけるマルチモビディティの実態とパターン

Aoki T, Yamamoto Y, Ikenoue T, Onishi Y, Fukuhara S. Multimorbidity patterns in relation to polypharmacy and dosage frequency: a nationwide, cross-sectional study in a Japanese population. Sci Rep. 2018;8(1):3806.

www.nature.com

 

近頃は日本でも医学書や雑誌などで取り上げられる様になった「マルチモビディティ」ですが、その実態はどこまで明かになっているのでしょうか?

 

 今回ご紹介するのは、私の研究テーマの一つである「マルチモビディティ」に関する研究です。今回も研究の中身に加えて、ストーリー(前日譚・後日譚)についても触れたいと思います。

 

前日譚

・研究の着想

 マルチモビディティは、一般的に2つ以上の慢性疾患が一個人に併存している状態であり、中心となる疾患を特定できない状態を指します。高齢化に伴って疾病構造が慢性疾患主体に変化している今日では、日常診療で高頻度に遭遇します。

 

 マルチモビディティという概念を初めて知ったのは、後期研修医の頃でした。私の総合診療/家庭医療の師匠である藤沼康樹先生から教わりました。

マルチモビディティや複雑性に興味を持った私は、当時の研修先でとても簡便なサーベイを実施し、学会発表やポートフォリオ発表をしました。

思い返してみると、これが私にとってマルチモビディティ・複雑性に関する初めての研究でした。本当にシンプルな研究で論文化もできませんでしたが、現象をきちんと記述することの重要性を学びました。

www.slideshare.net

 

 その後、藤沼先生が企画されたマルチモビディティの雑誌特集を読んだり、自分で文献を調べたりしていましたが、そこで分かったのは、

日本では、もそもどれくらいのマルチモビディティ患者がいるかすら研究されておらず、要するにほぼ何も分かっていないという事実でした。

 

 当時、私には利用可能なデータも臨床研究の経験もなかったため、いずれチャンスが巡って来たら、マルチモビディティの研究をして、まず日本の実態を明かにしたいと考えました。

またその上で、個人的に興味があり、臨床経験からも重要だと考えていた研究テーマがありました。それは、マルチモビディティのパターンです。

 

・マルチモビディティのパターン

 マルチモビディティの患者を診療していて、「複数の慢性疾患の併存」という定義が、臨床上どこまで有用なのかという疑念を持っていました。 

例えば2つの慢性疾患を持つ患者であっても、その中には慢性心不全と糖尿病を持つ患者もいれば、気管支喘息アトピー性皮膚炎を持つ患者もいる訳です。両者の健康リスクや適切なアプローチ法には違いがあることが予想されます。

 

 疾患数による一括りの定義から一歩踏み込み、そのパターンを見出すことが、リソース配分やパターン別のアプローチ法開発に有効ではないかと考えていました。

文献を調べてみると、海外ではマルチモビディティのパターンを分析した研究が既に実施されていることを知りました。ただし同時に、そのパターンがどの様な臨床的意義を持つのかについては、先行研究がほとんどないことも分かりました。

 

 ・チャンス到来

 その後2016年、当時京都大学の大学院生だった私に、思いがけずマルチモビディティの研究を行うチャンスが訪れました。指導教官の先生方が、全国の一般住民を対象とした前向きコホート研究に誘ってくださり、私が取得したいデータを調査に組み入れて頂けることになりました。

そこで研究の目的を

①日本のマルチモビディティの実態を明らかにすること

②マルチモビディティのパターンを同定すること

③そのパターンとポリファーマシーや服薬回数といった治療負担との関連を明らかにすること

としました。

③は、パターンが持つ臨床的意義を明らかにするために設定しました。

治療負担とは、ポリファーマシー、服薬回数の増加、受診や検査頻度の増加、ライフスタイルの変化など、特にマルチモビディティ患者で増大しやすい治療に関連する患者側の負担を指します。

  

論文の内容 

・研究デザイン

 全国一般住民を対象とした横断研究

 

・対象、セッティング

 民間会社が保有する全国住民パネルから、年齢、性別、居住地域に基づくquota samplingによって抽出された18〜84歳の住民。

 

・測定項目

①慢性疾患

 高血圧、糖尿病、脂質異常症脳卒中、心疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、腎疾患、泌尿器疾患、膠原病・関節疾患、腰部疾患、神経疾患、精神疾患、内分泌疾患、悪性疾患、眼疾患、皮膚疾患

②ポリファーマシー、服薬回数

 10種類以上の処方薬+OTC薬をexcessive polypharmacyと定義

 服薬回数が3回/day未満をlower dosage frequency、3回/day以上をhigher dosage frequencyと定義

③共変量

  年齢、性別、最終学歴、世帯年収

 

・統計解析

①マルチモビディティ・パターンの同定

 全研究参加者を解析対象とし、多次元項目反応理論を使用した探索的因子分析によって、マルチモビディティのパターンを同定しました。

因子数は、平行分析を用いて決定し、因子分析では因子負荷量0.30以上の疾患を採用しました。

最大事後確率推定を用いて、対象者ごとに各パターンの傾向の強さをパターンスコアとして算出しました。

 

マルチモビディティ・パターンとポリファーマシー、服薬回数との関連

 医療機関に定期通院している研究参加者を解析対象としました。

年齢、性別、最終学歴、世帯年収を交絡因子として調整した多重ロジスティック回帰分析を用い、四分位で区分したマルチモビディティ・パターンスコアとexcessive polypharmacy及びhigher dosage frequencyとの関連を解析しました。

欠損値は、多重代入法を用いて対処しました。

 

・結果

①マルチモビディティの頻度

 3,256名の一般住民が本研究に参加しました。マルチモビディティの有病割合は、18歳以上の住民において29.9%65歳以上の高齢者においては62.8%に昇りました。

また医療機関に定期通院している参加者は、1,480名であり、そのうち6.8%にexcessive polypharmacyを、23.7%にhigher dosage frequencyを認めました。

 

②マルチモビディティ・パターンの同定

 平行分析の結果、5因子構造が仮定されました。

Figure 1 | Scientific Reports

 

 因子分析の結果、以下の5つのマルチモビディティ・パターンが同定されました。

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マルチモビディティ・パターンとポリファーマシー、服薬回数との関連

 多変量解析の結果、パターンによって、ポリファーマシーや服薬回数との関連に差異が認められました。

  • 心血管/腎/代謝疾患及び悪性/消化器/泌尿器疾患パターンスコアは、excessive polypharmacyとの関連が大きかった。
  • 骨/関節/消化器疾患、呼吸器/皮膚疾患、悪性/消化器/泌尿器疾患パターンスコアは、higher dosage frequencyとの関連が統計学的に有意だった。

Figure 2 | Scientific Reports

  

後日譚

・研究としての影響

 この研究は、日本初のマルチモビディティの実態やパターンを調査した研究となり、国際的にもパターンと治療負担との関連を調査した初の研究となりました。

この論文が出版された翌年の2019年頃から、徐々に他の日本の研究チームからもマルチモビディティに関する原著論文や総説論文が発信されるようになりました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

www.jstage.jst.go.jp

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 その後、我々もマルチモビディティに関する原著論文を複数出版しています。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 現在、本研究の追跡データを用いて、マルチモビディティ・パターンが健康関連QOL低下に及ぼす影響に関する前向きコホート研究の論文も投稿中です。

 

 また総合診療領域以外でもマルチモビディティに対する関心が高まりつつあり、昨年は日本緩和医療学会等3学会の合同学術大会で、マルチモビディティに関する国際シンポジウムに登壇しました。今後は領域横断的な共同研究に発展する兆しもあります。

緩和・支持・心のケア 合同学術大会2020 プログラム

 

・プラクティスへの影響

 有難いことに、本研究は現場の臨床医(特に総合診療医)からも大きな反響を頂き、臨床医向けの医学書籍や雑誌、ブログなどでも数多く紹介して頂いています。

 

藤沼康樹先生のブログ

高齢者多疾患併存、その診療のコツ - 藤沼康樹事務所(仮)for Health Care Professional Development

長野広之先生のブログ

日本のMutimorbidityのパターンについて : 今日なに読もう〜病院総合診療医の論文ブログ〜

森川暢先生のブログ

マルチモビディティパターンとポリファーマシーの関係 - コミュニティホスピタリスト@奈良

 

大浦誠先生の医学界新聞連載「ケースで学ぶマルチモビディティ」では、連載回のタイトルにもマルチモビディティ・パターンを取り入れて下さっています。

www.igaku-shoin.co.jp

 

日本医事新報にも寄稿しました。

www.jmedj.co.jp

 

 今年は、臨床医学雑誌でマルチモビディティ・パターンをテーマにした特集を組むことになっています。こちらも出版されたら手に取って頂ければ幸いです。

 

 しかしながら、今のところ、まだマルチモビディティ・パターンの臨床的意義が明らかになり始めた段階で、パターン別アプローチ法の開発が、今後の重要な研究課題と言えるでしょう。これからもマルチモビディティ診療の質向上のために、エビデンスを発信していきたいと思います。

 

長文にお付き合いありがとうございました。

 

2020年振り返り

2020年も残り1週間を切りました。今年はCOVID-19パンデミックや所属の変更で、激動の1年間でした。そんな年だったからこそ、振り返りをしておきたいと思います。

  

できたこと

・研究

①計8編の筆頭原著論文が国際誌に受理・掲載

②プライマリ・ケア・総合診療領域のトップジャーナルであるAnnals of Family Medicineに論文が掲載

プライマリ・ケア領域を越境して、病院団体、民間企業との新たな共同研究を開始

 

②Annals of Family Medicineに論文が掲載されるのは、2018年に続き2回目です。日本では診療所と病院の双方でプライマリ・ケアが提供されていますが、両者の質にどのような相違があるかを調査した研究です。そのうちこのブログでも紹介したいと思います。

www.annfammed.org

  

④はこれまでのプライマリ・ケアでの研究活動(特に医療の質評価とマルチモビディティ)が、少しずつ他の領域でも認められてきたことを感じました。これらの研究もいずれこのブログで紹介したいと思います。

 

・教育

①所属が変わり、指導を担当する大学院生の数が増えた

②質的研究の院生指導を、経験豊富な学外の研究者と一緒に行うことができた

③新たな形式で教室リサーチミーティングを開始

 

①後進のclinician-researcherの育成はとてもやりがいのある仕事ですし、何より私自身も楽しみながら一緒に研究をさせてもらっています。

②私は量的研究の経験の方が圧倒的に多いのですが、過去に質的研究の論文(混合研究含む)も少数執筆しています。ただ力量はまだまだ足りないので、ベテランの質的研究者の方と一緒に大学院生を指導する機会は、私にとっても貴重です。

 

・社会活動

①日本プライマリ・ケア連合学会の理事に就任

②医療の質向上のための体制整備事業の部会員としての活動

③一般社団法人 日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会 世話人としての活動

 

①日本プライマリ・ケア連合学会は、総合診療医/家庭医のコア学会です。正直理事に当選する自信はあまりなかったのですが、有り難いことに多くの方が応援して下さいました。その責務を果たすべく、研究推進を中心に活動を始めています。

②は厚労省の補助で日本医療機能評価機構が実施している事業で、私は主に日本の医療の質指標を標準化する活動のお手伝いをしています。

③は前回ブログでも紹介したPatient Experience (PX)に関する普及活動、実践家に対する教育活動のお手伝いです。

academicgp.hatenablog.com

 

できなかったこと

・研究

①共著論文が少なかった

②混合研究論文の産みの苦しみ

③海外の研究者との連携がまだまだ少ない

 

①は来年以降徐々に増えていきそうです。日本ではまだ当領域の研究者が少ないことも影響していると思います。

②今年混合研究(量的研究+質的研究)の論文を投稿したのですが、量的研究・質的研究どちらかに偏っている編集者や査読者に当たることが多く、受理までに苦労しました。混合研究は、まだまだ多くのジャーナルで査読プロセスに課題があると感じましたが、我々の投稿先の選定もうまくなかったと反省しました。

③はコロナ以前に兆しがあったのですが、今年は一歩後退といった感じです。

 

・教育

①コロナの影響もあり、教室外の教員、学部生・教室外の大学院生との接点が少なかった

②コロナの影響で、地域の医療者を対象とした臨床研究教育プログラムが、オンライン開催になった

 

①コロナの影響はまだ続くでしょうが、来年度から大学院共通カリキュラムの講義の一部を担当させて頂く予定です。

②当教室で長年行っている教育プログラムです。やはり対面の方が、講師と参加者、参加者同士のコラボレーションが進みやすいと思うので残念でした。

 

・社会活動

①ほとんどの活動がオンラインになって、対面での交流ができなかった

 

Next Step

①来年から新たに開始する2つのプライマリ・ケア研究プロジェクト(1つは学会関連)を成功させる

②COVID-19に関連したヘルスサービス研究を発信する

③プライマリ・ケア研究で得た知見を他領域へと拡張する共同研究もさらに推進する

④大学院教育のエフォートを増やす

⑤Patient Experience (PX)実装のための社会活動を、マクロレベルに引き上げる

 

こうやって振り返ってみると、改めてCOVID-19パンデミックの影響が大きかったこと(もちろん診療にも多大な影響がありました)、そしてオンラインは便利だけど機会に応じて対面での活動を望んでいることを自覚しました。

 

お付き合いありがとうございました。来年も宜しくお願いします。