Academic GP

総合診療/家庭医療領域のエビデンス構築を目指して

Revisit:プライマリ・ケア・総合診療領域の日本発研究論文数

今回は番外編で、日本のプライマリ・ケア/総合診療領域の研究の現状について取り上げます。

 

 以前私は、プライマリ・ケア・総合診療領域の主要国際学術誌に、日本発の研究論文がどのくらい掲載されているか調べ、論文として報告しました。今振り返ってみると、当時まだ1-2編しか論文を書いていなかった大学院生の若造がよくこんな論文書いたな、と感じます笑

 

www.jstage.jst.go.jp

【論文要旨】

PubMedを用い,2011年1月~2016年6月の期間にプライマリ・ケア主要国際学術誌5誌に掲載された臨床研究もしくは系統的レビューを報告した論文を検索し,日本の論文数シェアを算出.

結果、5大学術誌に掲載された日本発の論文は計4編のみであり,日本の論文数シェアはたった0.15%!プライマリ・ケア主要国際学術誌における日本の論文数シェアは極めて少なかった.

 

 この研究では、2011年~2016年6月を対象期間としていたため、その後約5年が経過し、変化があるのかが気になっていました。

そこで今回は、以前の調査の続きとして、2016〜2020年のプライマリ・ケア・総合診療領域における日本の論文数を検討してみたいと思います。

 

・調査方法

 対象のプライマリ・ケア・総合診療領域の主要国際学術誌は前回と揃えました。Impact Factorを基準に以下のジャーナルを選択しています。なお1〜3位はほぼ固定ですが、4,5位は年によって多少入れ替わりがあります。

 

プライマリ・ケア・総合診療領域の5大誌

1. Annals of Family Medicine (AFM)

2. Journal of General Internal Medicine (JGIM)

3. British Journal of General Practice (BJGP)

4. Family Practice (FP)

5. The Journal of the American Board of Family Medicine (JABFM)

 

 PubMedを用い、以下の検索式で総論文数と日本発の論文数をカウントしました。

なお検索上、症例報告や総説を完全に除外できていない可能性はあります。

今回の調査における日本発論文の定義は、著者の所属に日本の機関が入っていることです。

 

総論文数

(((“ジャーナル名"[Journal]AND("2016"[PDAT]: "2020"[PDAT]))AND journal article[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])NOT review[Publication Type])AND hasabstract[text]

日本発の論文数

(((“ジャーナル名"[Journal]AND("2016"[PDAT]: "2020"[PDAT]))AND journal article[Publication Type])NOT case reports[Publication Type])NOT review[Publication Type])AND japan[Affiliation]AND hasabstract[text]

検索日:2021年1月22日

 

・結果

 対象となった 5つの学術誌に掲載された日本発の論文は計29編であり、日本の論文数シェアは 0.90% でした。

 

 前回は計4編、0.15%でした。まだまだ少ないですが、日本発の論文が増えているようです(単純計算で6-7倍)。

 

表. ジャーナル別の結果 (2016〜2020年)

f:id:academicgp:20210123103310j:plain

 

1. Annals of Family Medicine (AFM)

 プライマリ・ケア/総合診療領域のトップジャーナルです。北米の家庭医療/総合診療に関わる7団体が共同で出版しています。

日本発の論文は、前回の調査では0編 (0%)でしたが、2016〜2020年では2編 (0.58%)でした。2編とも私たちの論文でした。

 

www.annfammed.org

www.annfammed.org

 

2. Journal of General Internal Medicine (JGIM)

 米国総合内科学会 (SGIM)の学会誌です。

日本発の論文は、前回の調査では1編 (0.11%)でしたが、2016〜2020年では7編 (0.59%)でした。私たちの論文は2編含まれていました。

 

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

link.springer.com

 

3. British Journal of General Practice (BJGP)

 Royal College of General Practitioners:RCGPの学会誌です。

日本発の論文は、前回の調査では0編 (0%)でしたが、2016〜2020年では1編 (0.17%)でした。これまで私の論文は掲載されたことがありません。

 

bjgp.org

 

4. Family Practice (FP)

 Oxford University Pressが出版する、この5誌の中では最も歴史があるジャーナルです。

日本発の論文は、前回の調査では2編 (0.41%)でしたが、2016〜2020年では16編 (2.78%)でした。5誌の中で、最も掲載数が多い結果でした。私たちの論文は3編含まれていました。

各論文のリンクは省略します。

 

5. The Journal of the American Board of Family Medicine (JABFM)

 American Board of Family Medicineが出版するジャーナルです。

日本発の論文は、前回の調査では1編 (0.29%)でしたが、2016〜2020年では3編 (0.57%)でした。これまで私の論文は掲載されたことがありません。

各論文のリンクは省略します。

 

・考察

2016〜2020年のプライマリ・ケア・総合診療領域の主要国際学術における日本の論文数シェアは 0.90% であり、前回の0.15%から増加していました。

 

ただし、以前の調査で、主要臨床医学国際学術誌(120誌)における日本の論文数シェアは、2〜3% と報告されており(これもまずい訳ですが‥)、他の専門領域と比較し、プライマリ・ケア・総合診療領域では日本発の研究論文が少ない状況に変わりはないと言うことができます。

 

総合診療は日本では新しい専門領域であり、今後学術的基盤を形成し、医療の質を向上させるために、日本からの研究の発信は不可欠です。

 

なお冒頭で紹介した以前の論文で、私が挙げた課題は、主に以下の点でした。

①プライマリ・ケア研究のインフラストラクチャーに関する課題

②プライマリ・ケア研究者の育成と連携

 

この約5年間の変化として

①については、少しずつ改善傾向にあるように感じます。国内の多施設共同研究は徐々に増えています。一方で、国際共同研究はまだ殆ど実施されていません。

②については、これも少しずつですが、総合診療医が臨床研究を学習するためのリソースは

増えています。大学院博士・修士課程以外にも、学会や大学が運営する臨床研究教育プログラムがあります。まだまだ受講者数が少ないのが現状ですが。

 

またプライマリ・ケア研究者のための新たなコミュニティも形成されつつあります。

pcrconnect.org

 

 

ただし、質的研究や混合研究が圧倒的に少ない点は、今後の重要な改善ポイントだと思います。

今回の再検討では、日本発の質的研究および混合研究(尺度開発研究を除く)の論文は0編でした。

量的研究者と質的研究者の連携は、依然として課題だと感じます。

 

お付き合いありがとうございました。