Academic GP

総合診療/家庭医療領域のエビデンス構築を目指して

日本初の入院患者を対象としたPX尺度を開発・検証

Aoki T, Yamamoto Y, Nakata T. Translation, adaptation, and validation of the Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems (HCAHPS) for use in Japan: A multicenter cross-sectional study. BMJ Open. 2020;10(11):e040240.

bmjopen.bmj.com

 

今回は、日本初の入院患者を対象としたPatient Experience (PX)尺度の開発・検証研究を紹介します。

 

背景

 以前プライマリ・ケアの外来患者を対象としたPX尺度であるJPCATの開発について紹介しました。

academicgp.hatenablog.com

 

 PXは、「医療サービスに関する患者の経験」を意味し、国際的に医療の質指標として重視されています。従来用いられてきた患者満足度と異なり、計量心理学の方法論を用いて標準化され、信頼性・妥当性が検証されたツールが評価に用いられます。

 

 しかし日本ではこれまで、計量心理学的特性が検証された入院患者対象のPX尺度が存在しませんでした。入院セッティングにおいても、患者中心性(Patient-centeredness)は重要な医療の質の構成要素です。

 

 そこで私たちは、米国 Centres for Medicare and Medicaid Services (CMS) とAgency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)によって開発され、国際的に最も広く活用されているPX尺度の一つであるHCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems )の日本語版を開発し、日本の病院における信頼性・妥当性を検証する研究を行いました。

 

 なおHCAHPSは、2000年代から全米調査に用いられており、収集されたデータは、診療報酬成果払いやパブリック・リポーティング(医療機関レベルや医師レベルの結果をウェブサイトなどで公開)に活用されるなど、重要な質指標として扱われています。

www.ahrq.gov

  

研究方法、成果

・研究デザイン

 多施設共同横断研究

  

・対象、セッティング

 計48の参加病院(日本ホスピタルアライアンス加盟病院)を調査期間内に退院した16歳以上の入院患者(連続サンプリング)。

 病院規模に応じて、施設当たり300〜600名の患者に質問紙を配布。

 

・測定項目

HCAHPS日本語版尺度

 原版開発元の米国CMS・AHRQから日本語版開発の承認。

 日本語版の開発は、AHRQが作成したCAHPS翻訳ガイドラインに従って実施。

 

 HCAHPSは、計19項目、8つの下位尺度で構成される。

  1. Communication with nurses(看護師とのコミュニケーション)
  2. Communication with doctors(医師とのコミュニケーション)
  3. Responsiveness of hospital staff(病院職員の対応)
  4. Hospital environment(病院の環境)
  5. Communication about medicines(薬剤に関するコミュニケーション)
  6. Discharge information(退院時の情報提供)
  7. Overall hospital rating(病院の総合的評価)
  8. Recommended hospital(病院の推奨度)

  

・統計解析

①構造的妥当性の検証

 確認的因子分析を実施。原版と同一の因子構造を仮定し、モデルを選択。

モデル適合度は、comparative fit index (CFI)、Tucker–Lewis index (TLI)、root mean square error of approximation (RMSEA) 、standardized root mean square residual (SRMR)を用いて評価。

 

②基準関連妥当性の検証

 病院レベルでの、各下位尺度スコアと病院の総合的評価とのピアソン相関係数を算出。

 

③内的一貫性の検証

 項目間相関とCronbachのα係数を用いて評価。

 

 

・結果

48病院計6,522人の入院患者を解析対象にしました。

 

①構造的妥当性

 確認的因子分析により、原版と同一の因子構造でのモデル適合度は良好でした。

CFI=0.987, TLI=0.981, RMSEA=0.031, SRMR=0.020

f:id:academicgp:20210325221610j:plain

HCAHPS日本語版の因子構造

引用:Aoki T, Yamamoto Y, Nakata T. Translation, adaptation, and validation of the Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems (HCAHPS) for use in Japan: A multicenter cross-sectional study. BMJ Open. 2020;10(11):e040240.

 

②基準関連妥当性の検証

 病院レベルでの、各下位尺度スコアと病院の総合的評価とのピアソン相関係数は、0.36〜0.63であり基準値以上でした。

 

③内的一貫性の検証

 項目間相関は0.31〜0.73と基準値以上でしたが、Cronbach α係数は、3つの下位尺度で基準値を下回りました。Cronbach α係数は項目数の影響を受けやすいためだと考えられます。

 

 なお開発した日本語版尺度は、筆者が運営する下記のウェブサイトで閲覧可能です。

www.patient-experience.net

 

研究の意義

 HCAHPS日本語版を開発し、その構造的妥当性、基準関連妥当性、内的一貫性の評価を行ないました。本尺度は、日本の入院患者におけるPXの評価とそれに基づく医療の質向上に有用と考えられます。

 

 プライマリ・ケアの外来セッティングで開始したPX研究・実装活動を、入院セッティングへ拡張する足掛かりになりました。

 

 HCAHPS日本語版はすでに全国規模で実装段階にあり、2020年は60以上の病院で本尺度を用いたPXサーベイが実施されました。今後も毎年実施予定です。

 

 先日は、日本医療機能評価機構が開催した医療の質向上のためのコンソーシアムで、HCAHPS日本語版を含めたPX評価について講演をさせて頂きました。講演動画がアーカイブ配信されているので、ご関心のある方は是非ご覧ください。

jq-qiconf.jcqhc.or.jp

 

 講演資料もダウンロード可能になっています。

https://jq-qiconf.jcqhc.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021/02/fad0c1c55b3f41ea0840c25362e55caf.pdf