私たちの最新研究の紹介です。マルチモビディティ・パターンと健康関連QOLとの関連に関する全国前向きコホート研究の結果が、BMJ Open誌に掲載されました。
<研究の要点>
- マルチモビディティに関する日本初の全国前向きコホート研究を実施。
- マルチモビディティ・パターンと健康関連QOLとの関連についての縦断研究を、国際的にも初めて報告。
- 5つの疾患パターンのうち、心血管代謝疾患パターンが、健康関連QOL低下と最も関連。
- 本研究の結果は、マルチモビディティの中でも特に健康リスクが高い患者の同定に役立つ可能性。
多疾患併存状態(マルチモビディティ)は、複数(一般的には2つ以上)の慢性疾患が一個人に併存している状態であり、中心となる疾患を特定できない状態を指します。高齢化や疾病構造の変化に従い、マルチモビディティは、今や国際的に重要な臨床課題に位置付けられています。
過去に私たちが実施した日本の全国横断研究では、一般住民におけるマルチモビディティの有病割合は18歳以上では29.9%、65歳以上では62.8%に昇りました。
マルチモビディティは、様々な健康リスクと関連することが明らかになっています。特に健康関連QOLは、マルチモビディティにおいて最も重要なアウトカムの一つとされています。
しかし、これまでのマルチモビディティと健康関連QOLとの関連についての研究には以下の課題がありました。
- マルチモビディティと健康関連QOLとの関連についての研究は、ほとんどが横断研究であり、縦断研究が非常に少ない。
- マルチモビディティには様々な疾患併存パターンがあるが、マルチモビディティ・パターンがどのように健康関連QOLに影響を及ぼすか検証した縦断研究は、国際的にもまだ報告されていない。
マルチモビディティ・パターンは、近年非常に注目されている研究課題です。マルチモビディティ患者は異質性の高い集団であり、例えば、2つの慢性疾患を持つ患者であっても、その中には慢性心不全と糖尿病を持つ患者も、気管支喘息とアトピー性皮膚炎を持つ患者も、パーキンソン病とうつ病を持つ患者も含まれます。この様な多様な患者群をマルチモビディティとして一括りにすることには限界があると考えられ始めているためです。
そのため本研究は、マルチモビディティ・パターンと健康関連QOL低下との関連を、全国規模の前向きコホート研究で明らかにすることを目的としました。
本研究は、50歳以上の全国一般住民1,211名を対象とした前向きコホート研究であり、以下の手順で統計解析を実施しました。
①以前の私たちの研究で探索的因子分析によって同定した5つのマルチモビディティ・パターンを確認的因子分析を用いて検証。
②5つのマルチモビディティ・パターンをスコア化し、そのスコアと健康関連QOL(SF-36で評価)の1年間での臨床的に有意な低下との関連を、患者背景を調整した多変量解析によって分析。
その結果、
- 5つのマルチモビディティ・パターンは、以前の研究で用いた探索的手法とは異なる確認的手法を用いても妥当であることが確認されました。
引用:Aoki T, Fukuhara S, Fujinuma Y, Yamamoto Y. Effect of Multimorbidity Patterns on the Decline in Health-Related Quality of Life: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan. BMJ Open. 2021;11:e047812.
- 5つのマルチモビディティ・パターンのうち、心血管代謝疾患パターンは身体的・社会的QOLの低下と有意に関連することが明らかになりました。悪性疾患パターンは身体的QOL低下とのみ有意に関連していました。その他のパターンについては、統計学的に有意な関連を認めませんでした。
引用:Aoki T, Fukuhara S, Fujinuma Y, Yamamoto Y. Effect of Multimorbidity Patterns on the Decline in Health-Related Quality of Life: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan. BMJ Open. 2021;11:e047812.
高齢化が進行している日本では、すでにマルチモビディティが臨床現場で当たり前の健康問題になっていますが、本研究の結果は、マルチモビディティの中でも、特にQOL低下のリスクが高く、介入の必要性が高い患者を同定する上で役立つ可能性があります。
ちょうど今月発刊の総合診療医向け医学誌Gノートで、マルチモビディティ特集の編集を担当したので、是非こちらもご覧ください。