Academic GP

総合診療/家庭医療領域のエビデンス構築を目指して

Ecology of Medical Care モデルを用いて、COVID-19拡大後の受療行動の変化を明らかに

米国総合内科学会の学会誌であり、プライマリ・ケア領域のトップジャーナルの一つであるJournal of General Internal Medicine (JGIM)に、私たちの研究グループの原著論文が掲載されました。

日本の一般住民を対象とした全国調査を実施し、Ecology of Medical Care モデルを用いて、COVID-19拡大後の住民の受療行動を明らかにした研究です。

以下のリンクから、どなたでも全文閲覧が可能です(ダウンロードは不可)。

https://rdcu.be/cGzgy

 

【背景】

 COVID-19パンデミックは、世界的に住民の受療行動に大きな影響を与えたと考えられています。例えば、日本でも、レセプトデータの分析によって、パンデミックの初期に外来受診患者数が減少したことが報告されています。しかし、COVID-19拡大後の受療行動の変化の全体像はまだよく分かっていません。特に、新たな健康問題に対する住民の受療行動がどのように変化したのか、不明でした。
 住民の受療行動を評価する方法の一つとして、Ecology of Medical Care モデルが挙げられます。Ecology of Medical Care モデルは、1961年にWhiteによって提唱された理論であり、新たな健康問題に対する受療行動を理解するための枠組みです。特にプライマリ・ケア、総合診療/家庭医療領域においては、数多くの教科書に引用されるなど、とても有名なモデルです。日本では、パンデミック前に過去2回、Ecology of Medical Careが調査されています。

 本研究は、Ecology of Medical Care モデルを用いて、COVID-19拡大後の日本住民の受療行動を調査し、パンデミック前との変化を分析することを目的としました。また住民属性と受療行動との関連も検討しました。

 

【研究方法】

 本研究は、郵送法を用いた調査研究です。調査は2021年5月に実施されました。

 民間調査会社が保有する約7万人の一般住民集団パネル(多段階無作為抽出法によって抽出)から、年齢、性別、居住地域による層化抽出法を用いて、調査時点で20〜75歳の対象者を2,000人選定しました。1,757人の回答者(回答率 87.9%)のうち、解析対象者は、1,747人でした。

 主要評価項目は、過去1か月間に生じた新たな健康問題(症状や外傷)に対する受療行動としました。具体的には、OTC薬使用、診療所受診、一般病院外来受診、大学病院外来診察、救急外来受診、在宅医療の利用、補完代替医療の利用、入院について評価しました。また住民属性として、年齢、性別、教育歴、世帯年収、社会的孤立、慢性疾患の数を評価しました。

 受療行動は、Ecology of Medical Careモデルを用いて、記述的に分析を行いました。さらに、住民属性と各々の受療行動との関連は、多変量解析を用いて分析しました。

 

【成果】

  • 新たな健康問題に対する受療行動として、OTC薬使用、診療所受診、一般病院外来受診が、COVID-19拡大後では大幅に減少していることが明らかになりました。
  • 特に65歳以上の高齢者において、診療所と一般病院外来受診の減少が顕著であり、パンデミック前の約1/3の水準でした。

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引用:Aoki, T., Matsushima, M. The Ecology of Medical Care During the COVID-19 Pandemic in Japan: a Nationwide Survey. J GEN INTERN MED (2022). https://doi.org/10.1007/s11606-022-07422-7
  • 多変量解析を用いて、住民属性と受療行動との関連を分析した結果、社会的孤立状態の住民は、OTC薬使用の頻度が高いことが示唆されました。
  • また複数の慢性疾患(マルチモビディティ)を持つ住民は、病院受診の頻度が高いことが示唆されました。

 

【今後の応用、展開】

  • COVID-19拡大後の診療所および一般病院外来受診の減少の主な原因として、(1)感染対策の普及による、一般的な感染症の減少(2)医療機関でCOVID-19に感染することへの不安による受診控えが考えられます。(2)については、特に感染による重症化リスクが高い高齢者において、受療行動に大きな影響を及ぼしていると考えられます。
  • 諸外国と比較して、日本はオンライン診療の普及が遅れているため、特にコロナ禍では、新たな健康問題が生じた際の医療へのアクセスに障壁が存在すると考えられます。医療の質や患者安全を担保した上で、オンライン診療の拡充を図ることが、アクセスの向上および受診控えによる重症化の予防に寄与する可能性があります。
  • 本研究は、パンデミックにより国際的な課題になっている社会的孤立と、受療行動との関連についても報告しました。利用の障壁が比較的低い薬局は、社会的孤立状態の住民にとって、重要なヘルスケア・リソースであることが示唆されました。社会的要因への対応も含めたプライマリ・ケア機能の強化が、薬局にも求められていると考えられます。

 

論文

Aoki, T., Matsushima, M. The Ecology of Medical Care During the COVID-19 Pandemic in Japan: a Nationwide Survey. J GEN INTERN MED (2022). https://doi.org/10.1007/s11606-022-07422-7