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総合診療/家庭医療領域のエビデンス構築を目指して

日本におけるプライマリ・ケアの価値の検証研究(第1報)

所属大学から私たちの研究成果に関するプレスリリースが配信されました。

日本におけるプライマリ・ケアの価値の検証研究(第1報)として、かかりつけ医の「プライマリ・ケア機能」と「予防医療の質指標(計14指標)」との関連を日本で初めて検証したヘルスサービス研究です。

research-er.jp

 

このブログでも研究論文の内容をご紹介します。

 

【背景】

 プライマリ・ケアは、住民のあらゆる健康問題に包括的かつ継続的に対応し、多職種や高次医療機関、地域住民との協調を重視するヘルスケアサービスであり、国際的に、従来の医療システムからプライマリ・ケアに重点を置いたシステムへの移行が推進しています。

 我が国でも、新型コロナウィルス感染拡大をきっかけに、プライマリ・ケアを担うかかりつけ医の役割に大きな注目が集まっており、かかりつけ医機能の強化が、医療制度議論における重要な論点になっています。しかし、日本の医療システムにおいて、かかりつけ医機能と住民が実際に受ける医療の質との関連については、これまで十分な検証が行われていませんでした。  

 コロナ禍での受診控えによって、検診などの予防医療の質低下が問題となっていることを鑑み、本研究は、新型コロナウィルス感染拡大後の我が国において、かかりつけ医のプライマリ・ケア機能と予防医療の質指標との関連を検証することを目的としました。

 

【研究方法】 

 本研究は、2021年5月に実施されたプライマリ・ケアに関する全国調査(National Usual Source of Care Survey: NUCS)の初回調査のデータを用いて、横断研究として実施されました。NUCSは、代表性の高い日本人一般住民を対象とした調査研究です。民間調査会社が保有する約7万人の一般住民集団パネルから、年齢、性別、居住地域による層化抽出法を用いて、20〜75歳の住民を2,000人選定し、調査に回答した1,757人を研究対象者としました(回答率 87.9%)。

 主要評価項目として、科学的根拠に基づき、計14項目の予防医療を選定しました。具体的には、スクリーニング(大腸癌検診、乳癌検診、子宮頸癌検診、血圧測定、血糖測定、骨密度測定、うつ症状スクリーニング)、予防接種(インフルエンザウィルスワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチン、破傷風ワクチン)、カウンセリング(減酒、禁煙、減量)の実施を評価しました。各住民の属性(性別、年齢、生活習慣など)に応じて、推奨される予防医療の項目を同定し、そのうち実際に実施した項目の割合(%)を質指標として算出しました。

 かかりつけ医の有無およびプライマリ・ケア機能は、Japanese version of Primary Care Assessment Tool (JPCAT)短縮版を用いて評価を行いました。JPCATは、米国Johns Hopkins大学が開発し、国際的に広く使用されているPrimary Care Assessment Toolの日本版であり、その妥当性・信頼性が検証されたプライマリ・ケア機能評価ツールです。JPCATの評価領域は、近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性といったプライマリ・ケアの特徴的な機能であり、日本医師会が定めるかかりつけ医機能、日本専門医機構の総合診療専門医や日本プライマリ・ケア連合学会の新・家庭医療専門医のコンピテンシーと重なります。

 統計解析では、住民をかかりつけ医あり群・なし群、かかりつけ医あり群をさらに四分位群(低機能群、低中機能群、中高機能群、高機能群)に分けて、予防医療の質指標を比較しました。比較を行う際には、多変量解析を用いて、年齢、性別、婚姻状況、教育歴、就業状況、世帯年収、喫煙状況、BMI (Body Mass Index)、ヘルスリテラシー、慢性疾患、健康関連QOL (Quality of Life)といった住民の要因の影響を統計学的に調整しました。

 

【成果】

  • 研究対象者のうち、57.5%がかかりつけ医を有していました。かかりつけ医あり群では、推奨される予防医療の実施割合は平均43.9%、かかりつけ医なし群では33.9%であり、多変量解析を用いて住民の要因を統計学的に調整した結果、両群には7.2%の平均差がありました。

  • かかりつけ医あり群の中でも、プライマリ・ケア機能が高い群ほど、予防医療の実施割合が増加し、結果は住民の要因を調整しても不変でした(かかりつけ医なし群とかかりつけ医あり・高機能群との調整後平均差:9.9%)。これらの関連は、予防医療をスクリーニング、予防接種、カウンセリングの3つのタイプに分けた解析でも、全てにおいて認められました(かかりつけ医なし群とかかりつけ医あり・高機能群との調整後平均差:スクリーニング 10.2%、予防接種 9.0%、カウンセリング17.0%)。また、実施のインターバルが1年以内の予防医療の項目に限定した感度解析においても、同様の結果でした。

  • 一方、かかりつけ医を持つ群においても、うつ症状スクリーニングや帯状疱疹および破傷風ワクチン接種の実施率は低く、かかりつけ医の予防医療提供における今後の課題と考えられました。

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Aoki T, Fujinuma Y, Matsushima M. Usual source of primary care and preventive care measures in the COVID-19 pandemic: a nationwide cross-sectional study in Japan. BMJ Open. 2022;12:e057418.から作成

 

【今後の応用、展開】

  • 本研究の成果は、かかりつけ医機能の強化やプライマリ・ケア専門医(総合診療専門医、新・家庭医療専門医など)の育成をはじめ、プライマリ・ケア機能の強化を政策的に推進する上での基礎資料となるものです。

  • 今回の研究成果をもとに、NUCSの追跡調査を実施し、様々なアウトカムの情報を収集することによって、新型コロナウィルス感染拡大後の我が国における、かかりつけ医やプライマリ・ケア機能の価値に関するエビデンスをさらに構築する予定です。

 

論文

Aoki T, Fujinuma Y, Matsushima M. Usual source of primary care and preventive care measures in the COVID-19 pandemic: a nationwide cross-sectional study in Japan. BMJ Open. 2022;12:e057418.

bmjopen.bmj.com